「支援学級に入ったら、もう通常学級には戻れないですか?」
これは、私が面談で保護者の方からよく聞かれる質問です。同じ不安をお持ちの保護者の方も多いのではないでしょうか。
でも実際には、戻ることは可能です。その決定には、保護者の意思も大きく関わっているからです。
ただし、戻るには慎重な判断と準備が必要です。
この記事では、戻るために必要なこと、実際の子どものケース、注意点などを特別支援学級の担任として経験をもとに詳しくお伝えします。
支援学級から通常学級に「戻ること」は可能です。
支援学級から通常学級へ戻ることはできます。私がこれまで担任してきた子も、何人か特別支援学級から通常学級へ在籍を変えています。
ただし、学年の途中で在籍を変更することは非常に難しいため、戻るなら「年度替わり」に合わせて計画的に進めることが基本です。
どうしたら戻れるの?
保護者が「戻したい」と希望すれば、戻ることは可能です。
ただし、これは簡単なことではありません。子どもの発達状況を十分に見極めてから判断する必要があります。
では通常学級に戻れる子どもの発達状況とはどのようなものでしょうか?
私の経験上、以下のような状態が目安になります。
・集団生活の中で周囲と同じ行動が取れる
・支援員がいなくても、集団授業に参加でき、ある程度内容が理解できる
・衝動的な行動が落ち着き、安定した生活ができる
・基本的なコミュニケーションが取れる
・身辺自立ができている(食事・トイレ・着替え・授業準備が一人でできる)
・学校、保護者、本人が納得して進められる状態になっている
この辺りの発達が十分でないと、通常学級に戻った後に子どもが苦しい思いをしてしまうかもしれません。
在籍変更までの学校での流れ
在籍を通常学級に戻す場合、以下のようなステップを踏みます。
①保護者との面談 通常学級に戻りたい意思を確認する
②校内の会議で共有、検討
③戻るまでの段階を検討、十分に擦り合わせる(子どもに戻れる力があると判断された場合)
④必要に応じた支援や段階的な移行
⑤年度替わりに在籍の変更
【実例】実際に戻った子どもたち
私がこれまでに担任してきた子どものなかで、特別支援学級から通常学級に戻ったという事例がいくつかありました。今回は、2つの事例を紹介します。
ケース1 Aくん
ADHDの傾向が強く、衝動的な行動、コミュニケーションの苦手さが強く見られる子でした。
通常学級でみんなと一緒に行動することは難しく、授業中も落ち着いて席に座るということは困難でした。
しかし、3年生頃から医療にかかり、服薬を始めてから落ちついた行動が取れるようになってきました。
保護者は中学校へ行ってから急に通常学級に戻っては大変であると考えて、6年生で通常学級に慣らしてから卒業をし、中学校でも通常学級で頑張っています。
💡ポイント
・6年生で通常学級に慣らしたこと
・通常学級のクラスの友達の理解、サポートがあったこと
中学校では、教科担任制や部活動など環境がガラッと変わり子どもの負担が大きくなります。そのタイミングでの通常学級への在籍変更はさらに子どもに負担をかけ、学校生活が苦しくなってしまう可能性があります。
また、A君は、友達にも恵まれ、感情の起伏が激しくなってしまうことがあることを理解してもらい、苦手なことは友達にサポートをしてもらうことで乗り越えることができました。
ケース2 Bくん
感情のコントロール、対人コミュニケーションに困難さを抱えているお子さんでした。
私は、6年生で彼を担任していました。
学校を休む回数も多く、困難さの改善にはまだ至ってはいませんでした。突然、冬の面談で突然保護者から「中学校では、通常学級に通わせたい。」と話がありました。段階的に移行してはどうか?通級を利用するのはどうか?という提案もしましたが、受け入れてはもらえませんでした。
通常学級となった中学校では、さらに欠席が増え、不登校になってしまったと聞いています。
💡ポイント
・十分な準備や段階的支援が足りなかった
・発達状況的に通常級に合う力がまだついていなかった
計画的に段階を踏むことができなったため、通常学級で生活できる力を十分につけさせることができませんでした。勉強は苦手ではなかったため、計画的に生活していれば、通常学級での生活も十分に可能であったと思います。
本人にもがんばりたいという気持ちがあっただけに、とても残念な結果となってしまいました。
「戻れるか」より「合っているか」が重要
保護者、本人の意思があれば、通常学級に戻ることは可能です。
しかし、通常学級に戻ることは、その子のゴールではありません。ゴールは、その子が未来で自立して人生を歩んでいけるようになることです。
そのために、その子に合った最適な学びの場はどこなのか。色々な視点を踏まえて、十分に考える必要があります。
特別支援学級から通常学級に戻って、また特別支援学級に戻る…これは子どもにとって大きな負担であり、自信を失くしてしまうリスクがあります。
焦らずに、その子にとっての最適な場所を一緒に探していきましょう。
まとめ
支援学級に入ることは、未来を閉ざすことではありません。
むしろ、その子らしく学び、育つための前向きな選択です。
大切なのは、「戻れるか」ではなく、「この子にとってどこが一番安心できる場所か」を考えることです。そしてそれが結果的に、将来での自立や就職につながっていくのです。