全検査IQが低いってどういうこと?|WISC検査を読み取ろう

「WISCの結果で全検査IQが平均より低いと言われてしまった。」
保護者の方からよくいただく相談です。

「うちの子は頭が悪いのかな……」「将来が心配…」
そんな不安を抱くのも当然です。

しかし、IQが低い=全てができない、未来に希望がないということではありません。

この記事では、現役教員の立場から「全検査IQが低い」とはどういうことか、そして学校や家庭でできる支援の方向性について整理します。

目次

IQ(知能指数)とは?

IQ(知能指数)とは、標準的な発達水準と比べて、検査を受けた人がどの程度、認知的に発達しているかを数値化したものです。


WISC検査では
「言語理解」「視空間」「流動性推理」
「ワーキングメモリ」「処理速度」
の5つの指標を測定します。
 その総合的な数値が 全検査IQ(FSIQ)です
平均は100で、90〜109が「平均範囲」とされています。

注意したいのは、IQは頭の良さを示す数値ではないということ。
またIQだけでは、その子の可能性や特徴まで全てを測ることもできないということです。

すなわち、
IQが低い=頭が悪い IQが低い=能力が低い
ということではなく、得意なことと苦手なことの差が数値として表れているだけなのです。

IQは絶対的な数値ではない

IQは一生変わらない絶対的な数値ではありません。
IQの数値は、幅があるもので、その時の感情や気分、環境によっても変化があります。
よって、数値は、あくまでも「検査を受けた時点では」と捉えましょう。

WISC検査では、IQの数値だけをみるのではなく、他の数値とのバランスを見ることが大切になります。

例えば、言語理解は高いけど処理速度が低い子は、総合IQが低く出ることがあります。
そのため「全検査IQが低い=全てが苦手」ということではないのです。

全検査IQが低いと出る子の特徴

あくまでも一例ですが、次のような傾向が見られることがあります。

①学習面
・新しいことを覚えるのに時間がかかる
・一度覚えたことを忘れやすい
・抽象的な内容(例:割合、文章題など)が苦手
・先生の説明をすぐに理解するのが難しい

②言語・コミュニケーション
・語彙が少なく、説明するのに時間がかかる
・言いたいことをうまく言葉にできない
・相手の話の理解に時間がかかる

③生活面
・日常のルールや手順を覚えるのに時間がかかる
・自分の身の回りのこと(支度・整理整頓など)が 
苦手
・予定の変化や新しい環境に慣れるのに時間がかか  る
・一度にたくさんの指示があると混乱してしまう
・集団のペースについていけないことがある

このような姿がサボっている、怠けていると勘違いされてしまうことがあります。

でも実際は処理や理解に時間が必要なだけなのです。

学校や家庭でできる支援の工夫

私が学校現場で大切にしていることを整理しました。
家庭でも取り入れられることが多いと思います、ぜひ参考にしてみてください。

1. ゆっくり成長することを前提にする

 理解や習得に時間がかかることがあります。
「できない」ではなく「時間をかければできる」と考えましょう。

大人からすると「もっと早く動いて欲しい。」と思うこともあるかもしれませんが、その子の特性なんだということをよく理解してあげましょう。
焦らず、子どものペースを理解して関わることが大切です。

2. 小さな成功体験を積ませる

大きな課題を小さく分けて、できたらしっかり褒める
⇨「できた!」という経験が自信となり、次の挑戦につながります。
学校現場ではよく「スモールステップ」という言葉を使います。
これは小さなゴールをたくさん用意して、目標達成までに「できた!」をたくさん感じさせる方法です。

例えば宿題。

一気に全部をやらせるのではなく、
問題を区切って、1〜3問ずつなど、本人の様子を見ながら取り組ませてあげてください。

ただ、このように取り組むとどうしても時間がかかってしまいます。
あまりにも時間がかかってしまうようでしたら、
担任の先生に宿題の量を相談してみましょう。

3. 言葉だけでなく「見える形」で伝える

私は子どもたちに伝えたいことは、なるべく目で見えるようにすることを心がけています。

例えば、机の上に準備するものの写真、時計の模型、授業でやることを順番に黒板に書く、絵カードを使うなどです。

ご家庭で使えるものとしては、例えば小さいホワイトボードやスマホなどの写真が有効です。
言葉だけの説明だと、頭の中で整理することが難しいことが多いです。
子どもが「なんだっけな……」となったときに、確認できるヒントを見えるようにしてあげましょう。

また、保護者の方が手順を「一緒にやってみせる」ことも効果的でしょう。

4. 得意なことを伸ばす

子どもにはいろいろな「好きなこと・得意なこと」があります。
運動、音楽、工作、絵、人と関わること、優しさなど、テストでは測れない力を伸ばすことが、自己肯定感を育てる鍵です。

ぜひたくさん褒めて、その子の得意や好きを伸ばしてあげてください。

何かに夢中になれる力は、その後の人生で色々なことに役立つはずです。

5. 感情を受け止める

 「友達のようにできない。」
「思うように表現できない。」
このような場面に直面すると、不安やイライラが強く出ることも。

そんなときには、そんな子どもの気持ちに寄り添ってあげてください。理想や思いと現実が離れてしまうのは、子どもにとっては悲しいことです。

子どもの感情を言葉で整理し、受け止め、安心感を与えることで次の挑戦にも繋がります。

最も避けたいことは、「僕なんて…」「私なんて…」と自己肯定感を下げてしまうことです。

6. 周囲の環境を整える

 環境は子どもの生活、成長に大きな影響を与えます。

例えば、
・静かな場所で学習する
・支度や生活の流れをルーティン化して習慣にする
・時間を区切って休憩を入れる
など、小さなことで構いません。
その子にあった環境を整えてあげましょう。

小さな工夫で、子どもが本来持っている力を発揮しやすくなります。

7. 学校や支援者と協力する

 学校と家庭で同じ支援を共有できると、子どもの成長は加速します。

 困ったときには、担任の先生に相談してみましょう。

 もしかしたら、学校での支援の仕方で、家庭でも取り組めるものがあるかもしれません。
 同じことを学校でも家庭でも取り組めたら、身につくスピードがぐんぐん上がるはずです。

 家庭での様子、学校での様子を共有しながら、その子にあった支援を見つけていきましょう。

まとめ

全検査IQはあくまで「受けた時点の認知的な発達水準」を示すものであり、頭の善し悪しを決めるものではありません。
IQの数値は、どうしても気にしてしまいがちですが、大切なのは、数値ではなく「その子がどんな支援を受ければ力を伸ばせるのか」という視点です。
検査結果を子どもの可能性を広げるヒントにしていきましょう。

IQについては、こちらの記事でも詳しく書いていますので、ぜひ参考にしてみてください。

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